CWPブログ

2015/06/23

「サイフォン式パイプ魚道」実際の川で見る 見学編

執筆者: cwp



サイフォン式パイプ魚道紹介編勉強編と続いて今回は実際に川に設置している魚道を見に行く見学編。

西日本工業大学水工環境研究室の赤司教授に、設置検証現場の川にご案内いただきました。ワクワクしますね。

大学から30分程度のところを流れる城井川。当日は雨天が続き、水量もかなり多いです。普段は飛沫を立てて流れ落ちている箇所は水は流れていないそうです。

サイフォン式パイプ魚道は2メートル程度の堰堤の隅に設置されていました。夢にまで見た、生きたパイプ魚道! 笑 赤司先生より実地での取り付け位置、方法等についてご説明いただきました。

落差2メートルくらいでしょうか
落差2メートルくらいでしょうか。実験では8メートルまではサイホンの原理がうまく働くそうです。
垂直に設置されていますね
垂直に設置されていますね

まず目に飛び込んできたのは魚が遡上している透明のパイプ!!

登っている!! 魚が!!!! これは大興奮です。

実際の川で魚が泳いている姿なんて普通は見れませんからね。上から覗いて魚影がわかるくらいで魚種まではわかりません。水族館や自宅の水槽で見るにしてもそれは飼育下の魚ですから。

登ってます
登ってます
登ってます
登ってます

実際に遡上している魚を観察できるのはとても重要なポイントです。だって、面白いですから。

「小さな自然再生」は住民主体で実施されるものです。そして一過性に終わらせるのではなく、付近の住民が継続的に川に興味関心を持ち続けることこそが肝要です。そのためには地域を担っていく子供の参加は不可欠だと思います。

私の川ヘの取り組みの根底あるのは「生き物がいれば子供は楽しいに決まっている」というもの。ここではその背景には触れませんが、このパイプ魚道で魚が遡上している様子を見れれば子供は楽しいに決まってるんです。こんな魚がいるんだ、こんな風に登るんだ、と子供は目を輝かせます。そうやって川や生き物への関心が芽生えてゆくのです。こういった原体験をもった子供は、川を、生き物を守っていく大人に成長します。少し遠ざかったとしてもやがて戻ってきますし、そういったことが理解できる大人になるのです。

話を戻します。

この時登っていたのは、ムギツク、アブラボテ。黒く婚姻色と立派な追い星が現れている綺麗なアブラボテでした。アブラボテが登る必要はないだろうに何故? でも、タナゴのような泳力の弱い魚でも登れてるってことです。パイプ内の流速が抑えられている証拠ですね。横の堰堤を流れる様子をみればわかりますよね。白く水泡をたてて滝のごとく流れています。

 

 

それなら、パイプの全てを透明なパイプにすればいいじゃん! って思いますよね。僕は思いました。笑 しかし、それはダメなんだそうです。日差しを受けているとパイプ内に藻が発生してしまうんだそうです。それが原因で流速や流量に影響が出ると。メンテナンスが大変です。自宅で魚を飼ったことのある方はイメージしやすいでしょう。濾過装置用の透明チュープはすぐに内側に藻が付着しますよね! なので、一部だけ観察用に透明なパイプを使います。

勉強編で見たパイプ魚道の透明部分は四角でしたが、これは曲線だと観察しにくいために特注で作ったものだそうです。

IMG_1206

では、部分別にパイプ魚道の構造を見てみましょう。

まずは上流部の取水口部分。

取水口にT字のパイプが取り付けられています。これは、ゴミを入りにくくする為と、流速を抑えるための工夫。取り付け箇所は、渇水時でも取水口が水面の下になるようにしなければなりません。また、ゴミの流入を防ぐためにも水面から1メートル程度は下げ方がいいとのこと。川底に近すぎると今度は砂や泥が入ってきてしまうので注意が必要です。

上流部取水口。
上流部取水口

 

上流部取水口
上流部取水口

次は設置(固定)について。

これは中々に問題です。増水時でも流されないようにしなければなりませんが、重しで固定するか、ボルトで固定するかの。堰堤の大きさや形状によって考慮しなければなりません。また、設置の仕方がまずいと中にエアーが溜まってしまいます。

既設の構造物に固定
既設の構造物に固定
既設の構造物に固定
既設の構造物に固定
IMG_1219
落差のある箇所なので、縦のパイプも固定

下流部の排水口は増水しているために設置面は見れませんでしたが、底面に接しており、固定はされていないとのことでした。ここも取水口と同様に渇水時でも水面より下になるように設置します。こちらは水深はあまり考慮しなくてもよいそうです。

堰堤の上から下流部配水口を覗く
堰堤の上から下流部配水口を覗く

さてさて、勉強編での最後で少し触れましたが、パイプ魚道にチラホラと映り込む青いホースについて説明しなければなりません。

サイフォン式パイプ魚道ではパイプの中にエアーが入らないようにすることが最も肝要です。エアーが入ってしまうと、うまくサイフォンが働かず、その役割を果たせません。エアーが入らないように設置しても、暫くすると水中のエアーが気泡化して溜まってしまうんだそうです。そこで、この青いホースの登場なのです。その名も「エアー抜きサイフォン」。

IMG_1262
掃除口につけられたエアー抜きサイフォン

水回り施工で使われる塩ビ管には、内側をメンテナンスできるように途中で手を入れられる掃除口というもがあります。気泡化したエアーは当然、高いところに溜まりますから、掃除口のところへエアーを誘導。そこに通常の水道等で使用されるバルブソケットを加工して取り付け、ここもサイフォンを利用して少量の水と一緒にエアーを抜きます。

堰堤の上から下流部配水口を覗く
メインサイフォンの流路ではないところにエアー誘導して、エアーを抜きます

つまり、本体構造であるメインサイフォンと、エアー抜きサイフォンの組み合わせで、サイフォン式パイプ魚道は成り立っているのです。赤司先生によれば、このエアー抜きサイフォンこそが最も重要で、コツの要るところであるとのこと。実際に設置することになれば、ここは苦労するかと思われます。どこに付けるか、どれだけ付けるか。

今回はもう一箇所見学しました。

見学2箇所目。一箇所目よりも落差は小さい
見学2箇所目。1箇所目よりも落差は小さい
ここも普段は白く泡立つほどの流量は無いのだとか
ここも普段は白く泡立つほどの流量は無いのだとか
上流部取水口。
上流部取水口。
取水口はT字の継手
取水口はT字の継手
本体と川底の重しを鎖等で繋いで固定
本体と川底の重しを鎖等で繋いで固定。掃除口からエアー抜きサイフォン
堰堤から下流部配水口への接合部分。観察用パイプはこの位置に
堰堤から下流部配水口への接合部分。観察用パイプはこの位置に
落差は1メートル程度
落差は1メートル程度
反対側から
反対側から

見学では、設置場所、固定方法、エアー抜きサイフォンが特に重要であることを教えて頂きました。複雑な構造物ではないからこそ、その工夫が大切であり、コツが要るとのこと。

ただ、きちんと学んで指導を受ければ、住民主体で取り組めるものであることを確信しましたね。なんといっても、必要な材料はすべてホームセンターや通販で極めて安価に手に入るものだし、制作、補修も用意である点が素晴らしい。日曜大工的に取り組める面白さも申し分無い。そして子供たちも楽しい!

設置してから一定期間を経ないと遡上効果がみられない、ということもなく、設置して1日程度ですぐに魚が遡上し始めるらしいです。下流部に群れていた魚影が一晩たってみたら上流部で群れているのだとか。それは、それだけ魚が登る場所を探している、ということに他なりません。実験でも用意したオイカワの8割で24時間で遡上したそうです。

是非、豊田市岩本川での「小さな自然再生」で実際に作ってみたいですねぇ。今は遡上していないオイカワやアユが岩本川で見られるようになれば最高です。そして、その効果をもって、全国の小さな自然再生でも活用されれば言うことなし

今回は西日本工業大学の赤司教授、太田研究員のご好意で「サイフォン式パイプ魚道」について多くの事を学ぶことができました。お忙しい中、現場の見学までご案内頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。ご研究の成果を活用させて頂き、魚道の新しい選択肢を示していければと思っています。

「サイフォン式パイプ魚道」シリーズ次回は、実践編の予定!! 乞うご期待!!

※「サイフォン式パイプ魚道」は北九州産業学術推進機構が特許を取得しています。

伊藤 匠

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