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2017/11/01

【カワサポ通信】シーボルトが残したものから川を見つめる【長崎県波佐見川】

執筆者: 岡本亮太 (たんたん)



出島があったからこそ、異国情緒あふれる長崎では、おもしろい視点で川づくりに取り組む人たちがいる。
医者であり、生物学者であり、自然学者でもあったシーボルトから、シーボルトが残したものから、現代の、自分たちの、地域の、川を見つめる活動をしている。

長崎県波佐見川—
河口に行くと、川棚川と名前を変えて流れる川で、約10年続けて、川づくりがおこなわれている。

この日は、2017年度の開催最終日。小学生2名、大人7名が参加し、みんなで取り組んでいた。
夏に、どんな生き物が波佐見川に居るかを調査して、その結果を受けて、波佐見川がどんな環境なのかを調べるという内容。

九州大学博物館の研究員でもある中島淳氏による、スコア方式による波佐見川の環境調査だ。

IMG_3589

方法は簡単。
調査で見つけた生き物それぞれに予め点数がついており(これこそ中島氏の長年の研究の成果なのだが)、その合計点を見つかった魚種で割り、算出した値により、その川の環境が適正かどうかを判断できるというもの。

ただ、実はこの方式の基礎となる点数表は、長崎県版は存在しておらず、福岡県版を用いた。
長崎県と福岡県では、川を取り巻く環境が大きく違う。
長崎県は、海に囲まれ、離島も多い環境でもあり、小河川が多い(=川長が短い)のが特徴で、舞台となった波佐見町だけは県内で唯一海に面していない自治体であるなど、なかなか特殊な環境なのだ。

そこで、福岡県版を基礎にしつつ、そのような環境も加味して、長崎県版レッドデータブック(絶滅危惧種情報をまとめたもの)を活用して、長崎県では珍しい魚種に加点するなどして得点調整して、長崎県版の簡易スコア表が出来上がった。

写真 2017-10-29 16 16 12

このスコア表の特徴として挙げられるひとつが、外来種は一律で1点であるということ。
魚種は何であれ、外来種がその川に存在するということは、「環境が良い」「本来の環境ではない」ということではないということ。やり方は非常に簡単だけど、1点という低い点数にしているところにもミソがある。

調整されたスコア表を用いて、参加者のみんながいつも自分たちが見ている波佐見川が何点なのかを計算して、いい川なのかどうかを判定していた。

10年続けているだけあり、毎年の魚種調査の蓄積があり、それをこのスコア表にあてると、点数の変動が見えて、自分たちの川づくり活動が、生き物の視点で言うと「いい川になってきたのかどうか」を知ることができている。それは同時に、外部へ示す根拠にもなっている。
同じ活動を続けること、続けてきたことをノウハウやデータとして蓄積していること、これはやはり純粋に素晴らしい。

 

実は、この日の点数をつけるために夏に行った生き物調査では、ものすごい快挙が生まれていた。
kawayo※長崎新聞より引用

40年ぶりにカワヨシノボリが発見された。生き物調査をしていたら、新聞も飛びつくビッグニュース。
これもまた一つの成果。続けることで、続けたことで、何かが動いたのだろう。

ちなみに、中島氏はやはり研究者。
写真 2017-10-29 14 10 31見つけたカワヨシノボリはDNA鑑定などして、今はこの状態。

この日も、生き物調査には出かけた。
写真 2017-10-29 15 10 12台風の影響で、川は増水して危険。
でも、その分、川のすぐ横に湿地のようにあふれた水たまりができて、そこで、大人も子供もガサガサ・・・

写真 2017-10-29 15 14 40

とれたー!
という子供や、むかし子どもだった参加者の声を受けて、中島氏が同定し、その生き物のワンポイント解説をしてくれる。

ただ、この日の目的は生き物調査よりかは「川づくり」
川そのものではなく、こういう湿地があるということは、川では住めないような、こうした環境を好む生き物たちの棲み処が生まれているということにもなる。
「多様性」という観点から言えば、こうした湿地や田んぼが、川のすぐ横のここに作れるといいよね、と。

なるほど、川づくりとは川そのものをつくることではなく、川を取り巻く環境も作ることなのだ。

写真 2017-10-29 15 23 46
中島氏が言っていた。
「田んぼは本来は、川の一部なんですよ」

近代化が進み、田んぼは無くなり、川も工業化され、本来は一体で自然と呼んでいたものが乖離され、煽りを受けて生き物は行き場を失ってしまい、人間によっていなくなったものですら、結果としてこれもまた人間が定めた「絶滅危惧種」とされて、減ったから気を付けましょうと声をあげる、良く考えれば実に都合よく回らせている気もする。

ココでは生きていけないけど、ソコなら生きていける。
人間にもあるこの感覚は、生き物たちにもあるんだろう。
だったらそれは人工的にであっても、場所を作るということも「地域の川づくり」のひとつかもしれない。

 

会場に戻って最後に行ったのは、この一年で見つけた生き物を、マップ上に落とすというもの。

写真 2017-10-29 16 18 10

長崎県らしい小河川とはいえ、上流、中流、下流、合計5地点で、どこで何の生き物を見つけたかを落とし込んでいく。
そうすると、これもまた、データとして蓄積されていく。

地域の川—
地域の人が関わり、地域に伝える蓄積が出来上がる。
その蓄積と比較して今年はここが変わった、こういう流れが見える。
だからこそ、こうしていこう—

同じ活動をするにしても、過去のそれと比較すること、過去から推察すること、それは非常に重要だと改めて感じた。

シーボルトは、出島で暮らしながらも、実は出島から外へ出て、いろんな生き物を取っていた。もしくは取らせていた。
じゃあ長崎のどこで、どこの川で、というのは記録がないけれど、もしかしたらこの波佐見川では?という説もある。
シーボルトもこうやってガサガサしてたのかな、と思いを馳せながら網を振るのは、いささかおもしろさが増す。

そしてシーボルトは、長崎でとったであろう多くの生き物を絵師に描かせ、データとして後世に残している。
その時代の生き物に関する文献は、実はそれほどなく、彼の残した功績は非常に大きい。

彼が長崎に残した跡を受けて、いまも長崎の人は、地域の川をよりよくしていこうと取り組んでいる。

シーボルトは「日本人は広々とした自然にひたって楽しむことを心から愛している」という言葉を残している。
今よりもっと自然が広がっていたはずの当時の日本でも、日本人は自然を愛していたと彼は言う。
自然が減ったからこそ自然を愛しいと思うのが現代なような気もするが、日本人の気質として自然を愛することは脈々とDNAに刻まれているのかもしれない。

写真 2017-10-29 15 06 46

シーボルトがガサガサしていたころの川のスコアは何点だったのだろう。
彼の功績とDNAを受け継いだ長崎の人々もまた、川づくりを通して、自然を楽しみ、川を愛していた。

 

岡本 亮太(取材・文章・写真)

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